忙しいのに利益ゼロ?工務店が陥る赤字工事の原因と今すぐできる脱却法
建設業の会計では「未成工事受入金」という特殊な勘定科目を使います。
この科目の意味や処理方法を正しく理解していないと、工事ごとの収支や決算時に負債と売上が不明確になり、経営判断を誤る原因となります。
最悪の場合、税務調査で不適切な会計処理を指摘され、追徴課税を受けるリスクもあるでしょう。
そこで本記事では、未成工事受入金の基本的な意味から、具体的な仕訳方法、工事進行基準と完成基準の違い、税務上の注意点まで、わかりやすく解説します。
正確な会計処理を身につけることで、工事別の資金状況を把握し、健全な経営判断ができます。未成工事受入金を適切に管理して、安定した事業運営を実現しましょう。
INDEX
未成工事受入金とは、建設業において工事が完成する前に顧客から受け取った代金のことを指します。
(参考:建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類)
以降で下記ポイントに焦点を当てて、もう少し詳しく内容をみていきましょう。
未成工事受入金と前受金は、どちらも商品やサービスの提供前に受け取る代金という点では共通していますが、使用する業種が異なります。
未成工事受入金は工事契約特有の勘定科目です。一方、前受金はそれ以外の一般的な契約で使用される勘定科目です。
建設業は工事の規模が大きく、1年以上にわたる工事も多くみられます。そのため専用の勘定科目で、工事別の収支管理を明確にして、適切な会計処理を行えるようにしています。
未成工事受入金は、貸借対照表において「流動負債」の部に計上されます。
なぜなら、工事が完成していない段階で受け取った代金であり、将来的に工事を完成させて引き渡す義務を負っているためです。
そのため、会計上は「顧客に対する債務」として扱われ、工事完成時に売上高へ振り替えられるまでは負債として管理されます。
仮に工事契約がキャンセルされた場合、未成工事受入金は原則として顧客へ返金する義務が生じます。先ほどお伝えした通り、顧客に対する債務という扱いになるためです。
未成工事受入金は顧客に対する債務として会計上扱われます。
ただし、民法第641条では、注文者が契約を解除する際には請負人に生じた損害を賠償する義務があると定められています。
そのため契約書の内容によっては、下記金額を返金せずに受け取れる場合がある点に注意しましょう。
契約時には、キャンセル条項や返金に関する取り決めを明確にしておくことが重要です。トラブルを避けるためにも、契約内容の明文化が不可欠です。
未成工事受入金を計上するタイミングは、顧客から工事代金の一部または全部を実際に受け取った時点です。
建設業では、下記のように複数回に分けて代金を受け取るケースが一般的です。
それぞれの入金があった時点で、未成工事受入金として負債に計上します。
工事が完成して引渡しをおこなった時点で、未成工事受入金を売上高へ振り替え、収益計上できます。
未成工事受入金の仕訳方法は、適用する会計基準によって異なります。
おもな仕訳方法は以下の2種類です。

それぞれの基準で仕訳のタイミングや内容が変わるため、自社が採用している基準に応じた適切な処理をおこなう必要があります。下記の条件の場合にそれぞれの基準での具体的な仕訳例をみていきましょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総工事代金(税抜) | 1億円 |
| 総工事代金(税込10%) | 1億1,000万円 |
| 決算時の進捗率 | 70% |
| 頭金 | 1,500万円 |
| 中間金 | 3,000万円 |
| すでに受け取った合計 | 4,500万円 |
工事進行基準では、工事の進捗度に応じて収益を計上していく方法です。
この基準を採用する場合、工事の進行に伴って未成工事受入金を段階的に売上へ振り替えます。例えば以下の条件の場合、仕訳はどうなるかをみてみましょう。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 総工事代金(税抜) | 1億円 |
| 総工事代金(税込10%) | 1億1,000万円 |
| 決算時の進捗率 | 70% |
| 頭金 | 1,500万円 |
| 中間金 | 3,000万円 |
| すでに受け取った合計 | 4,500万円 |
この工事の場合は以下のように仕訳をおこないます。
【頭金受取時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,500万円 | 未成工事受入金 | 1,500万円 |
【中間金受取時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 3,000万円 | 未成工事受入金 | 3,000万円 |
【決算時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 3,200万円 | 完成工事高 | 7,000万円 |
| 未成工事受入金 | 4,500万円 | 仮受消費税 | 700万円 |
| 借方合計 | 7,700万円 | 貸方合計 | 7,700万円 |
頭金や中間金を受け取った際はそれぞれ未成工事受入金を貸方に計上します。
決算時の進捗が70%のため、1億円×70%=7,000万円が完成工事高です。
本来現時点で税込7,700万円の売上ですが、7,700-4,500=3,200万円の完成工事未収入金があるため、計上して借方と貸方の合計を合わせます。
工事完成基準では、工事が完了した時点で一括して収益を計上する方法です。
この基準を採用する場合、工事完成までは受け取った金額をすべて未成工事受入金として負債に計上し続けます。
工事進行基準と同様のケースで仕訳の違いをみてみましょう。
【頭金受領時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 1,500万円 | 未成工事受入金 | 1,500万円 |
【中間金受領時】
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 普通預金 | 3,000万円 | 未成工事受入金 | 3,000万円 |
【工事完成・引渡し時】進捗率100%
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 完成工事未収入金 | 6,500万円 | 完成工事高 | 1億円 |
| 未成工事受入金 | 4,500万円 | 仮受消費税 | 1,000万円 |
| 借方合計 | 1億1,000万円 | 貸方合計 | 1億1,000万円 |
上記仕訳のとおり、進行基準と違い、工事未完成の場合は決算時の売上計上はしません。
つまり頭金と中間金は、負債のままで、売上・利益ともにゼロです。
工事完成時に売上1億円を計上して、初めて利益が確定します。
未成工事受入金に含まれる勘定項目は、工事契約に基づいて受け取る各種の入金です。基本的には工事が完成する前に受け取った代金を未成工事受入金として負債に計上します。
代表的な項目としては下記の通りです。
このように工事完成前に受領したものは、未成工事受入金として処理します。
未成工事受入金の会計処理では、正確性と適切な基準の選択が重要です。
特に注意すべき点は以下の3点です。

それぞれ説明していきましょう。
まず重要なのが「取引内容を正確に把握して記帳する」という点です。
未成工事受入金は工事の進捗に応じて金額が変動するため、入金のタイミングや金額、対応する工事案件を正確に記録する必要があります。複数の工事を同時進行している場合、どの工事に対する入金なのかを明確にしておかないと、決算時に残高が合わなくなる原因となります。
契約書や入金伝票と照らし合わせながら、工事別に管理することが大切です。
次に注意したいのが「工事進行基準と完成基準のどちらを採用するか」という点です。
| 工事進行基準とは…工事進行基準とは、工事の進捗度に応じて、各決算期ごとに工事収益と工事原価を按分して計上する方法です。工事収益総額・工事原価総額・決算日における進捗度を合理的に見積もれる場合に適用され、長期工事でもその期ごとの業績や採算を把握しやすいという特徴があります。
完成基準とは…工事完成基準とは、工事が完成し、目的物を引き渡した時点で工事収益と工事原価を一括で計上する方法です。比較的工期が短い工事や、進捗度を合理的に見積もることが難しい工事で用いられ、会計処理がシンプルになる一方で、完成までの期間は損益が見えにくいというデメリットがあります。 |
それぞれのメリットデメリットをまとめておきます。基準を選ぶ際の参考にしてください。
【工事進行基準】
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 毎期の業績が把握できる | 会計処理が複雑 |
| 赤字工事を早期発見できる | 進捗率の管理が必要 |
| 経営判断に役立つ | 税務調査で争点になりやすい |
| 株主などへの説明がしやすい |
【工事完成基準】
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 処理が簡単 | 完成まで損益がわからない |
| 確実性が高い | 赤字発見が遅れる |
| 監査が容易 | 経営判断が遅れる |
| 保守的で健全 | 長期工事には不向き |
| 中小企業でも対応可能 | 資金繰りが見えにくい |
なお、下記条件をすべて満たす際は、強制的に工事進行基準が適用されます。
また、会計上のルールである「成果の確実性が存在すること」も工事進行基準の適用条件のひとつです。成果の確実性とは具体的に以下の3点がすべて信頼できるレベルで見積もれる必要があることです。
加えて現在は工事進行基準自体は廃止され、新収益認識基準という名称で制度が引き継がれている点も理解しておきましょう。
新収益認識基準は2021年4月から採用された会計基準で下記の企業規模を満たす場合は強制適用されます。
ただし先ほども述べたように、新収益認識基準の実質的な処理方法は工事進行基準と同じのため、ここでは工事進行基準として説明します。
工事進行基準は進捗率に応じて売上を計上するため、長期工事でも期ごとの業績がわかりやすくなります。その分適切な管理をおこなうためには手間がかかり、管理をおろそかにしていると税務調査で追求されるリスクが上がります。
対して工事完成基準は工事完了時に売上を計上するため、会計処理がシンプルです。ただし完成まで損益がわからず、長期工事には不向きです。
また期をまたぐことがはっきりわかっている工事については工事進行基準を採用するなど、自社の会計方針に沿って基準の選択をおこなうとよいでしょう。
未成工事受入金は税務調査でも注目されやすい項目です。
よくある指摘としては、工事完成後も未成工事受入金として計上し続けているケースや、実際には工事が完了しているのに収益計上していないケースがみられます。
また、入金額と契約金額の不一致や、工事の進捗状況と帳簿残高が合わないといった問題も指摘されやすいポイントです。
これらを防ぐには、工事台帳と会計帳簿を定期的に照合し、完成した工事はしっかり収益計上しておきましょう。
未成工事受入金の管理には、工事管理システム「AnyONE」が効果的です。
AnyONEでは、見積・契約・発注・支出・入金データを一元管理できます。工事進行状況や請求・入金履歴をリアルタイムで把握できるため、未成工事受入金の残高確認や決算時の集計作業を大幅に効率化できます。
また、会計ソフトや積算ソフトなど他システムのデータを参照すれば、工事別の原価管理や収益管理を正確におこなうことが可能です。
手作業によるミスを防ぎ、税務調査にも対応できる正確な会計処理を実現します。
未成工事受入金について、よくある疑問は以下の通りです。
これらの疑問を解決しておくと、考え方自体がしっかり理解できるため、会計ミスの発生を抑えられます。
それぞれについて以降で解説します。
未成工事受入金が負債になる理由は、工事完成という義務が残っているためです。
建設業者は、前受金として受け取った金額に対して工事を完成させる義務を負っています。つまり工事が完了するまでは、受け取った金額は顧客から一時的に預かっている状態になるわけです。
そのため、貸借対照表では流動負債として計上されます。工事が完成し、引渡しが完了した時点で、初めて負債から売上に変わります。
未成工事受入金と工事未収入金は、どちらも建設業特有の勘定科目ですが、性質が全く違います。
未成工事受入金は「負債」の科目で、工事完成前に顧客から受け取った頭金や中間金などの前受金を計上します。
一方、工事未収入金(完成工事未収入金)は「資産」の科目で、工事の売上は計上したものの、まだ入金されていない代金です。
言い換えると、未成工事受入金は「顧客から預かっているお金」、工事未収入金は「顧客から受け取る権利があるお金」という違いがあります。
未成工事受入金は、建設業において工事完成前に受け取る前受金を管理する重要な勘定科目です。
貸借対照表では流動負債として計上され、工事完成時に売上へ振り替えられます。適切な会計処理をおこなうには、工事進行基準と工事完成基準の違いを理解し、取引内容を正確に記帳することが重要です。
また、税務調査で指摘されやすいポイントも把握しておく必要があります。
こうした煩雑な管理業務には、工事管理システムの活用がおすすめです。
「AnyONE」なら、見積から入金まで工事データを一括管理でき、未成工事受入金の残高確認や決算時の集計が格段にスムーズとなります。
工事別の収益管理も正確に行え、手作業のミスを削減しながら税務調査にも備えられます。
建設業の健全な経営のために、未成工事受入金の適切な管理を心がけましょう。
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