建設業界では、業務効率化の一環として「電子契約」が注目されています。特に、工事請負契約書の電子化は、時間とコストを削減し、業務の信頼性を向上させる手段として有効です。

この記事では、工事請負契約書の電子化のメリットと導入の進め方を解説し、業務効率化システムを利用する具体的な方法をご紹介します。

 

工事請負契約書とは？

工事請負契約書とは、建設業において工事を請け負う際に締結される重要な書類です。この契約書では、工事の内容やスケジュール、金額、品質基準、責任の範囲など、契約当事者間の取り決めを明確に記載します。

まとめると、工事を発注する側（施主）と受注する側（請負業者）の双方が、円滑なプロジェクト進行とトラブル防止のために取り交わす書類です。工事請負契約書には、工事開始から完成に至るまでの詳細なルールが記載されており、契約違反や工事内容の変更が発生した際にも法的な拠り所となります。

工事請負契約書の電子化は可能

近年、IT技術が進展する中、工事請負契約書についても電子化が可能になっています。従来の紙ベースの契約書は、保管や郵送に多大な手間とコストがかかっていましたが、電子契約の導入により効率的な管理ができるようになりました。

電子化された工事請負契約書は、電子署名を用いて法的に有効な状態を保ちながら、インターネットを通じて簡単にやり取りできます。

その結果、場所や時間に縛られずにより効率的な契約締結ができるようになりました。

　建設業に電子契約が導入された経緯

2001年の建設業法改正によって、建設工事の請負契約書の電子化が認められています。

それ以前は紙の契約書が必須とされていましたが、IT技術の進展により電磁的記録を利用した契約が認められるようになりました。

こうした背景には、業界全体での業務効率化や労働力不足に対するデジタル化への推進があります。特に建設業界では、紙の書類管理にかかる手間とコストが課題だったため、電子化による効率化が注目されることとなりました。

　グレーゾーン解消制度

建設業における電子契約の普及を後押しした一つの制度が「グレーゾーン解消制度」です。この制度は、法的に曖昧な規定について、事前に関係省庁に確認できる仕組みです。

例えば、ある電子契約サービスが建設業法に適合しているかを経済産業省に確認し、適法と判断された場合、そのサービスを安心して利用できます。グレーゾーン解消制度のおかげで、多くの企業が電子契約システムを導入しやすくなり、建設業界全体の電子化が進んでいます。

　工事請負契約書の電子化に必要な条件

電子契約を導入する際には、以下の3つの条件を満たす必要があります。

●原本性・・・契約書が改ざんされていない状態を証明する条件
●見読性・・・契約内容を容易に確認できる条件
●本人性・・・契約を結ぶ当事者が正しい本人である条件

これらの条件については、後の「工事請負契約書を電子契約するときの注意点」の項目で詳しく解説します。

【工事請負契約書】紙ベースと電子化の違い

紙ベースの契約書と電子化された契約書には、以下のように運用上の大きな違いがあります。

　紙ベースの契約書の特徴

●印刷や製本に手間がかかる。
●郵送や対面での手渡しが必要なため、契約締結までに時間がかかる。
●大量の紙を保管するスペースが必要になる。
●紛失や汚損のリスクがある。

　電子契約の特徴

●契約書の作成から署名、保管までをすべてオンラインで完結できる。
●郵送や対面でのやり取りが不要になり、時間を大幅に短縮できる。
●クラウド上で管理するため、保管スペースが不要になる。
●データはセキュアに保存されるため、紛失や汚損のリスクが低減する。

このように、電子化は時間やコストの削減だけでなく、業務全体の効率化にもつながるため、多くの工務店や建設会社で採用が進んでいます。

工事請負契約書を電子化するメリット

工事請負契約書の電子化により、以下のようなメリットが得られます。

　業務効率の向上

従来の紙ベースでは、契約書を印刷して郵送し、確認してもらった後に署名を回収するまで数日要するのが一般的でした。

しかし、電子契約を導入すれば、契約書をクラウド上で共有し、その場で署名が可能です。さらに、紙の契約書はファイルに閉じて保管する手間がかかっていましたが、電子化によりデータベースから瞬時に必要な情報を検索できます。

過去の契約書を確認する際などは、検索機能を使って特定の契約条件や日付の抽出も容易です。

　印刷や郵送コストの削減

紙ベースの契約書では、1通の印刷費や郵送費に数百円かかると仮定すれば、100通以上の契約書を扱う場合、数万円単位の費用が必要となります。しかし、電子契約を活用すれば、これらのコストを削減できます。

また、紙の保管スペースが不要になるため、物理的なコストも削減可能です。契約書を保管するための棚や倉庫スペースを借りる必要がなくなるだけでなく、契約書の劣化や紛失のリスクも回避できます。

　セキュリティと法的信頼性

電子契約には、高いセキュリティと法的信頼性が備わっており、タイムスタンプや電子署名の使用によって、契約書の内容が第三者により変更されるリスクを最小限にできます。また、電子署名法に準拠しているため、法的効力も確保される点もメリットです。

例えば、クラウド上での契約管理では、アクセス権限を設定すれば関係者以外が契約書の閲覧ができません。特に、機密情報を含む契約においては、社内外での不正使用を防ぎ、安心して運用できるでしょう。

　環境への配慮

工事請負契約書の電子化は、ペーパーレス化を推進し、持続可能な業務運営を実現する方法の一つです。A4用紙1枚の生産には数リットルの水が使用されると言われますが、大量の紙を使用した契約書の作成は、環境に負荷をかけるものとして問題視されていました。電子化を進めれば、紙の使用を大幅に減らし、二酸化炭素排出量の削減に寄与できます。

また、不要になった契約書を廃棄する際の手間や処分コストも不要になるため、地球に優しい業務運営が実現します。

工事請負契約書を電子化する方法

工事請負契約書を電子化するためには、ステップごとに手順を踏んでスムーズに導入できます。ここでは、具体的な手順をわかりやすく解説します。

　ステップ①電子契約サービスの導入

最初のステップは、電子契約を実現するためのサービスの選択と導入です。クラウド型の電子契約サービスを利用すれば、契約書の作成から締結、保存まで一連のプロセスを効率化できます。

導入を検討する際は、契約内容の管理や操作性、サポート体制などを比較し、自社に最適なサービスの選択が重要です。

　ステップ②工事請負契約書をアップロード

導入した電子契約サービスを使用して、工事請負契約書をアップロードします。契約書をPDF形式などのデジタルファイルに変換して、サービスの指定する方法でのアップロードにより準備が整います。

この手順を通じて、デジタル上で契約書の適切な管理が可能です。

　ステップ③施主様へメールで通知

アップロードが完了した契約書を、施主様に送付します。電子契約サービスでは、メールで通知を送る仕組みが用意されているため、郵送や直接手渡しする手間がありません。

また、メールには確認期限や進捗状況が記録されるため、施主様の確認状況を簡単に把握できます。

　ステップ④施主様による工事請負契約書の内容確認

施主様は、送付されたリンクをクリックして、契約書をオンライン上で確認します。この段階で、契約内容に疑問点や変更が必要な箇所がないかをしっかり確認してもらいましょう。

もし不明点があれば、契約書内のコメント機能などを利用すれば、直接どの箇所が不明かを確認しながら契約を進められます。

　ステップ⑤合意・締結

施主様が契約内容を確認し問題がなければ、電子署名をおこないます。電子署名は法律で定められた形式に基づいているため、紙の契約書に押印するのと法的効力が同等です。

電子署名が完了すると、契約が正式に締結され、施主様と契約担当者の双方に締結完了の通知が届きます。

　ステップ⑥電子署名済みの工事請負契約書をダウンロード・保管

締結された契約書は、クラウド上に安全に保管されます。必要に応じて契約書をダウンロードして、ローカルストレージや外部のバックアップデバイスへの保存も可能です。この機能により、必要なときにすぐに契約書を検索し、アクセスできます。

また、電子化された契約書を保存するクラウドには、ログを残る機能が搭載されているものがほとんどです。そのため、万が一契約書が変更された際は履歴から誰が作業したか確認でき、改ざんリスクを防げます。

工事請負契約書を電子契約するときの注意点

電子契約は便利で効率的ですが、法律的な信頼性や安全性を確保するためには、いくつかの注意点を押さえる必要があります。

工事請負契約書を電子契約化する際に重要となる「原本性」「見読性」「本人性」の3つの要件について解説します。

　原本性

原本性とは、契約内容が改ざんされていない状態を保証するための要件です。タイムスタンプは契約書が特定の日時に作成され、以降改ざんされていない状態を証明する技術です。

不正な変更や改ざんのリスクを回避するために、タイムスタンプや電子署名の活用が求められます。

　見読性

見読性とは、契約書の内容が誰にでもわかりやすく表示される要件です。電子契約システムでは、契約内容が適切にフォーマットされているか、画面上でスムーズに確認できるようなデザインになっているかを確認する必要があります。

紙の契約書と異なり、電子契約書ではフォントの種類や文字の大きさ、配置などが重要となります。

　本人性

本人性は、契約の当事者が正しく本人である状態を確認する要件です。電子契約では、なりすましや不正アクセスのリスクがあるため、契約締結者の確認が重要です。

契約書に電子署名をおこなう際には、認証機関が発行するデジタル証明書を利用して、本人確認が確実におこなわれるようにしましょう。

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契約書の作成から電子署名、保管はもちろん、見積書や請求書の管理、プロジェクトの進行状況の把握など、工務店業務全般をサポートする機能が充実しています。

契約書の電子署名から請求書の発行までワンクリックでおこなえるため、複数の業務の効率化が可能です。

まとめ

工事請負契約書の電子化には、業務効率の向上、印刷や郵送コストの削減、セキュリティの強化、環境への配慮といった多くのメリットがあります。電子契約の導入によって、紙の契約書にまつわる多くの課題が解消され、よりスムーズで効率的な業務運営が可能となります。

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記事監修：佐藤主計
保有資格：1級造園施工管理技士、2級土木施工管理技士
建設業界に携わり30年。公共工事の主任技術者や現場代理人をはじめ、造園土木会社の営業マン・工事担当者として、数万円から数千万円の工事まで幅広く担当。施工実績は累計約350件にものぼる。

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