見積書での人工の書き方は?人件費や労務費との違いも解説

見積書での人工の書き方は?人件費や労務費との違いも解説

建設業では、工事の施工に必要な人件費を人工(にんく)、あるいは人工代(にんくだい)と呼びますが、見積書の書き方が分からず困っている方もいるでしょう。

工事を請け負ったり、作業者として現場に入場したりする際に、人工代を正確に見積もることは適正な利益を確保するために重要です。

この記事では、人工の意味や計算方法のほか、労務費や人件費、法定福利費などと関連づけて人工について解説します。

また建設業の見積書の正しい書き方も説明しています。
ぜひ最後まで読んで参考にしてください。

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建設業でよく使われる人工とは

建設業でよく使われる人工とは

建設業でよく使われる人工とは、簡単に言うと「作業員1人あたりの賃金」のことです。

定義としては単純明快ですが、労働集約型のビジネスモデルである建設業にとって、人工は重要なキーワードです。

人工の意味や計算方法、人工と関連性の高い歩掛、この3つのポイントで人工について解説します。

 人工の意味

人工は、作業員1人あたりの賃金のことですが、残業費や各種手当は含まれていません。あくまで1日8時間の労働に対する賃金です。

作業員の人工単価をどう決めるかは、基本的に依頼主と業者の間で決まります。この時、よく参考にされるのは、国土交通省が毎年公表している「公共工事設計労務単価」です。

「令和6年3月から適用する公共工事設計労務単価」によれば、令和6年の東京都の普通作業員の労務単価は、25,400円です。電工は30,100円、塗装工は32,700円となっています。

また北海道では、普通作業員20,000円、電工25,300円、塗装工27,800円です。さらに同じ業種でも、熟練工と見習工では人工代に差をつける必要性があります。

以上のように、人工代には、職種や地域によって違いがあることを覚えておいてください。

 人工の計算・記載方法

1人工が25,000円と決められている場合、1人が4日間働くと100,000円の賃金が発生します。このときの労働は、4人工と表記します。

働く人の数が3人に増えると、3人×4日間で12人工となり、合計300,000円が人件費です。
以下は、これを一般的な書式の見積書にしたものです。

人工の計算方法

建設業において、人工代を正確に管理することは、経営の健全性に直結するため留意しなければなりません。

繁忙期においては自社の作業員だけでは手が回らないことが多々あります。そういう時、一人親方を常用工として雇用する場合は、外注費扱いとするのが一般的です。

ただし雇用契約で役務提供とする場合は給与となりますから、判断が難しい場合は、税務署の窓口や労政事務所などに相談してみましょう。

 人工と歩掛

ここでは、人工と歩掛の関係性について解説します。

入札や見積合わせのために、発注者が公表した設計図書や仕様書をもとに、歩掛を積上げて工事費を算出することを積算といいます。歩掛を簡単にいうと、材料費に施工費をプラスしたものです。

歩掛の施工費は、人工に諸費用を加算した労務費をベースに考えますが、同じ工種の工事でも材料の種類や施工方法などで違ってきます。

積算に必須の歩掛は、材料費の高騰や労務単価の増加など、常に最新の実勢価格に更新されていなければなりません。

そのため、積算の基準となる「公共建築工事積算基準」や「土木工事積算基準」は定期的に改定を続けています。

人工代をいくらに設定するか検討する時は、以上のような現状を踏まえ、少なくとも最新の労務単価を押さえておくことは必要です。

人工と労務費や人件費との違い

人工とは、現場作業に従事する労働者に支払われる1日分の賃金のことですが、似たような言葉に労務費や人件費があります。

人工と労務費や人件費の意味の違いや、最近公共工事において計上が強く推奨されている法定福利費について解説します。

 人工と労務費

労務費は人件費の一部であり、賃金や給料、福利厚生費などが含まれます。人工には、残業費や福利厚生費は含まれません。

福利厚生費とは、レクリエーションや社員旅行、健康診断などの費用のことです。

一般的に労務費は、直接労務費と間接労務費に分けることができますが、建設業では直接労務費のみが該当します。工事施工に直接携わる労働者に支払われるため、工賃と呼ばれることもあります。

工事に携わるすべての労働力にかかる費用で、パートタイムやアルバイト、正社員などの雇用形態は関係ありません。

ただし、工事管理者や事務職員に支払われる賃金は、労務費に含まれません。いわゆる管理部門の方の賃金は「一般管理費」として計上されます。

建設現場の原価管理では、労務費と外注費としての人工を別個に管理することで、正確な利益計算が可能となります。

 人工と人件費

人工には、残業費や福利厚生費などは含みません。しかし人件費には、給与や各種手当、社会保険料、労働時間外手当、退職金、福利厚生費、教育研修費などが含まれます。

人件費は、現場に直接かかわる作業員だけでなく、営業職や事務職を含めたすべての従業員にかかる費用を指します。

労務費は人件費の一部であり、建設現場においては工事価格や工事原価に含まれますが、人件費は一般管理費として計上されるものです。

現場の施工管理者は、労務費率をコントロールして適正な利益の確保を目指します。この時、ポイントとなるのが、当初の計画以下の人工で作業を完了させることができたかです。

できる限り平準化して工事を進捗させていくのがベストですが、不測の事態で予算を上回ったときには次の工程で調整することも重要です。

現場での調整がなされて適正な利益が確保されるほど、会社全体の人件費率を適切な数値に調整しやすくなります。

 人工と法定福利費

法定福利費とは、社会保険や労働保険にかかわる経費のことで福利厚生費のひとつです。

2013年より、下請の建設業者が元請業者に見積書を作成・提出する際は、法定福利費の計上を明記するように義務づけられています。

社会保険や労働保険への加入は、法人または特定の業種を除く従業員5名以上の個人事業主の義務となっています。これは他の業種に比べて、危険な作業が多い建設業で働く従業員たちの保障を確保するためです。

見積書などでは、法定福利費は、労務費や現場管理費には含まず別途記載します。以下は、建設業での法定福利費の一般的な計算式です。

法定福利費=労務費総額×法定保険料率

法定保険料率は保険の種類によって違うため、「協会けんぽ」「日本年金機構」「厚生労働省」などの公式サイトで確認しましょう。

建設業における見積書作成のポイント

建設工事の施工にあたっては、見積書の作成は必須です。

工事内容の詳細がわかる見積書を発注者と共有することで、工事をスムーズに進めることができます。また、必要な材料や労務、施工方法がわかるため、適正な利益確保に重要な役割を果たすからです。

ここでは、建設業における見積書作成のポイントについて解説します。

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 最新の実勢価格を調査・反映

建設業の工事の見積にかかわる労務費や材料費は、常に最新の実勢価格を調査・反映させることが重要です。

労務単価は、各業種とも微増ではありますが増加傾向は続いており、使用する燃料費や資材費は社会情勢の変化の影響を受けやすいです。

建設物価や積算資料、諸官庁の積算基準などをきめ細かくチェックし、最新の情報に更新しなければなりません。

各資料に該当がないものに関しては、直接メーカーに問い合わせたり、独自に価格調査したりすることも必要です。

特に公共工事においては、歩掛を積上げた積算が重要となります。歩掛を構成する施工費は、
労務費や車両費、建設機械費などの合算ですが、一般的には人工として捉えられている場合も多いです。

 現場状況や施工方法を把握

建設業では、同じ工種の工事でも、現場の立地条件、工事期間の気候状況、施工方法などで見積金額は異なります。

現場へのアクセスが悪く、大型建設機械が進入できなければ、その分人工が増えたり施工期間が延びたりします。当然、費用は割増しとなるでしょう。

冬期間寒さが厳しくなる地域では、暖房費がかかったり、除雪費用がかかったりとそうでない地域に比べると費用は大きく膨らみます。

同じ法面保護工の構造物工でも、石張工、ブロック張工、コンクリート吹付工などでは現場状況で見積金額は大きく違うため、施工方法の把握は重要です。

また梅雨期は雨天による作業中断のリスクが高まるため、工期に余裕を持たせる必要がある点に注意しましょう。
真夏の炎天下では、熱中症対策や作業時間の制限により、通常より多くの人工が必要となる場合もあります。このような季節要因は、見積金額に大きく影響するため、適切に考慮する必要があります。

 人工単価の設定や作業員の熟練度を考慮

地域や職種による単価の違いを正確に反映することが重要です。国土交通省が公表している「公共工事設計労務単価」を参考に、地域の実情に合わせた単価設定を心がけましょう。

同じ職種でも、熟練工と見習工では人工代に差をつける必要があります。経験や技能に応じた適切な単価設定を行いましょう。

 消費税込みの金額を記載

見積書に消費税を記載する法的義務はありませんが、税込・税別の明記はしておくことをおすすめします。

小  計  ○○,○○○円
消費税    ○,○○○円
合  計  ○○,○○○円

上記のような書き方が一般的です。

2021年4月から広告や価格表示において、消費税額を含めた総額表示が義務化されましたが、見積書はこの義務に該当しません。

総額表示の義務は、特定かつ多数の消費者に対する場合に限られており、特定の取引相手に提示する見積書や請求書は含まれません。

しかし見積書も文書である以上、さまざまな方の確認を受けるものであるため、わかりやすく明記しておくのが良心的であるといえます。

商習慣として、税込・税別の明記が一般的になっているというのも、おすすめする理由のひとつです。

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インボイス制度と人工代の関係

2023年10月より導入されたインボイス(適格請求書)制度の登録事業者になった一人親方で、見積書の書き方が分からず困っている方もいるでしょう。

結論からいうと人工代の計算や書き方は、インボイスの導入後も同様であるため、特に変更はありません。

インボイス制度導入後も見積書の作り方を変更する必要はありませんが、見積書にインボイス登録番号を含めた必須事項を記載することで、見積書をインボイスとして使用できます。

●インボイス登録番号
●適用税率
消費税額
税率ごとの消費税額

見積書のフォーマットを変更したくない場合は、今までどおりの書式を使用しても構いません。

ただし、インボイス事業者に登録している場合は請求書を記載する際にはインボイス登録番号や税率の明記が必要であることを忘れないようにしてください。

 インボイス登録番号や税率を書き忘れた場合のリスク

万が一見積書や請求書にインボイス登録番号や税率を書き忘れると、取引先に迷惑をかけてしまいます。

元請け業者は売り上げにかかる消費税から仕入れにかかる消費税を差し引き、消費税を計上しています。

しかし、発行した請求書がインボイスの要件を満たしていない場合、この仕入れ税額控除を受けられません。

つまり、取引先が消費税を二重に支払う事態になってしまいます。

このような事態を避けるためにも、インボイス対応の見積書や請求書を用意しておきましょう。

 工務店がインボイスを受け取る際に注意すること

先述したように、インボイスの要件を満たさない請求書を受け取っても、仕入れ税額控除が受けられません。

工務店が一人親方と取引する際はまず、インボイス登録事業者であるかどうか事前に確認することが必要です。

登録事業者の場合は、受け取った見積書や請求書にインボイス登録番号等が記載されているか確認しましょう。

また、インボイス登録事業者以外と取引する際は仕入れ税額控除が受けられないため、消費税の支払いについて事前に協議して合意を形成しておいてください。

見積書の人工代の書き方についてよくある質問

最後に、見積書の人工代の書き方についてよくある質問をまとめました。

 人工費と労務費の違いはなんですか?

労務費は人件費の一部であり、従業員全体に支払われる賃金の総額(福利厚生費等を含む)を意味します。労務費は工事施工を実施する労働者に対して払われる1日分の賃金を意味します。

 適正な人工単価の決め方はどうしたら良いのですか?

工事単価を決める際は、公共工事設計労務単価を参考にして依頼主と業者の間で決めましょう。季節や職人の熟練度、地域性なども考慮する必要があるため、同じ地域で実施された工事の人工代を参考にする方法もおすすめです。

 一人親方の場合の見積書の書き方に特別なルールはありますか?

一人親方の場合は、基本的に発注者のフォーマットに従って請求書を発行します。記載が必須なのは「発行者の氏名や名称・請求書の宛先・取引年月日・取引の内容・請求金額」の5項目です。人工を用いて詳細に金額を記載して請求書を発行しましょう。

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まとめ

この記事では、見積書での人工の書き方などについて以下のポイントで解説してきました。

●建設業で使われる人工の概要
●労務費や人件費との違い
●建設業における見積書作成

人工・人工代とは、残業や手当が含まれない、作業員1人が1日8時間働いたときの賃金です。労務費や人件費を考えるうえでのベースであり、労働集約型の事業である建設業で重要な用語のひとつです。

地域や職種で違う人工をしっかりと把握して、見積書に正しく記載することは、適正な利益を確保するための第一歩です。

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記事監修:佐藤主計
保有資格:1級造園施工管理技士、2級土木施工管理技士
建設業界に携わり30年。公共工事の主任技術者や現場代理人をはじめ、造園土木会社の営業マン・工事担当者として、数万円から数千万円の工事まで幅広く担当。施工実績は累計約350件にものぼる。


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