【家族と住む福祉住宅】みんながストレスフリーに暮らせる家づくりとは?

【家族と住む福祉住宅】みんながストレスフリーに暮らせる家づくりとは?

パラアスリートとして日本車椅子ラグビー界を牽引した官野一彦(かんの かずひこ)選手。現役のパラアスリートでありながら、ユニバーサルトレーニングジムの経営や企業顧問として活躍の幅を広げる。さらに自宅を3度も建て直した経験を活かし、「福祉住宅コンサルタント」としても活動している。前回に続き、“家族で住む”福祉住宅づくりの秘訣を伺った。

(※シリーズ #03「福祉住宅づくりで“選ばれる”工務店になる秘訣」の続きの内容です)

子どもが生まれてリフォームを決意

子どもが生まれてリフォームを決意
1軒目に住み始めて5年。ある時、クローゼットの中身がカビていることに気づきました。なんと隣接するお風呂場から水漏れし、床に大きな水溜りができていたんです。他にも住宅の欠陥に気づき、ちょうど子どもが生まれたタイミングでもあったので、家族で住めるようにリフォームを決意しました。

1階は少しでも費用を抑えるため、使えるものは使おうと、柱をできるだけ残し、耐震上必要な間柱を増やしました。平屋だけでは住みにくいので、2階を付け足したんです。家全体では4LDKの間取り。2階にはロフト付きの部屋を2つと、筋トレルームを1つ設けました。

さらに、1軒目で問題になった箇所を改善しました。

お風呂

1軒目のお風呂は、床を40cm上げて浴槽のエプロンと同じ高さにしていました。でも、普通の人が入るのに、40cmの段差を上がるのは面倒くさいですよね? 万一、子どもが落ちて怪我をしても危ない。「ここは絶対に変えよう」という話になりました。

そこで、ベンチ付きの一般的なお風呂に変えたんです。ある程度の広さを設けたかったので、1.5坪ほど確保してシャワーチェアも付けました。

入浴方法としては、ドアを開けてからシャワーチェアにトランスファー(移乗動作)して全身を洗い、さらにベンチに移動してから浴槽に入るんです。浴槽のエプロンがベンチの高さと同じになっているんですね。ベンチから少しいざって、足を入れてお風呂にドボンッという流れだったんですよ。

トイレ

トイレは合計3つ設置しました。1階と2階に家族用、1階に僕用です。
1軒目のトイレは約6畳という、とんでもない広さだったので、1畳くらいまで小さくしました。車椅子が1台出入りできる程度のスペース。1軒目と同じく、手洗い用のシンクを付けました。狭い分、掃除が前よりもバーッとできて良かったです。

ただ、いきなり一般的なトイレにするのは不安があったので、御座敷のままにしました。当時は仕事の残業も多くて、毎日疲れて帰っていた。それでトイレが不便だと、余計な疲れが溜まると思ったんですよね。

階段昇降機

2階に上がるために「階段昇降機」を設置しました。階段の側面に、折りたたみ式のイスが付いていて、ボタンを押してウィーンと上がっていくタイプです。

エレベーターではなく階段昇降機を選んだ理由は、2つあります。
まず、コスト面。エレベーターはおよそ250万円かかるのに対し、階段昇降機なら約60万円で済むんですよ。圧倒的に違うじゃないですか。

次に間取りです。階段昇降機には、「直線」と「曲線」の2タイプがあります。僕が選んだのは直線型。直線型は十分なスペースを確保しないと設置できません。柱の位置は決まっているので、どこに階段を付けられるかって限定されたんですよ。階段ありきで間取りを決めました。

過度なバリアフリーは「バリア」になる

過度なバリアフリーは「バリア」になる
前回も触れましたが、1軒目は過度のバリアフリーが「バリア」になってしまったんです。2軒目は基本的に大きなマイナスはありませんでした。それでも使ってみたら、「あれ?これちょっとこれおかしいな」って思うことがあったんです。

お風呂

まず1.5坪のお風呂は、広すぎて掃除が大変でした。

想像してみてください。広いお風呂は浸かっていて気持ちいいじゃないですか。でも、いざ掃除するとなったら、嫌になりません? 一般家庭のお風呂は1坪、マンションなら0.75坪くらいです。1.5坪ならマンション2個分の広さなんですよ。正直、「めんどくさっ」って思いませんか。

しかも、ベンチの形が良くなかった。ベンチの裏側がカビてしまうんですよ、ガッツリ。僕がキレイ好きだったのも相まって、掃除だけでもう嫌になりました。

できるだけ家事は、家族で分担したほうがいいじゃないですか。でも、僕がやれる家事なんてたかが知れているんですよ。だから「風呂掃除ができるならやろう」と思うんですが、とにかく時間がかかる!僕も毎日できるわけではないので、妻がやると同じことを言ってましたね。

トイレ

トイレは、不安から御座敷にしましたが、そこまでの必要性もなかったんです。現在は完全に通常のトイレを使っていますが、当時でも使おうと思えば使えたんです。でも仕事を考えて御座敷にしたんですけど、必要ありませんでした。ここも過度なバリアフリーになっていましたね。あとは同じく掃除に苦労しました。床のマットの隙間にホコリが入って、それを取るだけでも時間がかかりました。

階段昇降機

階段昇降機では、エレベーターのように車椅子ごと移動できません。車椅子から昇降機にトランスファーして、ボタンを押しっぱなしにしてウィーンと上がるのを待たなきゃいけない。2階についたら、もう一度車椅子にトランスファーしてと。毎日のように時間と手間がかかりました。加えて、2階にも車椅子を置くことになるから、競技用も含めると「家に何台あるんだよ」という状況だったんですね。

ささいな違いが大きなストレスに

ささいな違いが大きなストレスに
家族と住むようになると、これまでとは別の問題点も見つかりました。

生活の動線

僕は家の中と外で車椅子を使い分けていました。中用の車椅子を玄関に置いていたんですけど、妻や子どもにとっては邪魔だったんです。車椅子の動線と、健常者の動線はどうしても違ってくるので。同じ家に住んでいても、生活するスタイルというか生活に必要なものが異なってくるんですよね。

例えば、帰ってきて車椅子が定位置にあったら僕は移りやすいのに、邪魔だからか退かされていたり。別に大した距離ではないですが、手間に感じました。

これは大したことではないかもしれないけど、毎日のことだと考えると、結構面倒くさいんですよね。「塵も積もれば山となる」の言葉通り、お互いのフラストレーションが溜まり溜まってイライラに。男女関係と一緒ですね。小さなことでイライラする、その福祉住宅バージョンです。

収納

家の中が広ければいいってものではないんです。住宅の収納は、とにかく大切。広さをケチって収納にするぐらいのほうが、本当はいいんですよ。「どこに何を入れるか」を詰めたほうがいいです。

僕の場合、生活の動線を優先して、収納は空いているスペースにつくりました。しかし、結果的に収納が足りなくて。納まりきらない子どものオモチャとかが散らばっていると、キレイではないですよね。
収納が足りなかったせいであちこちにモノが散乱して、車椅子で邪魔しちゃったり、見た目も悪かったんですよね。収納は当時の何倍かあって良かったです。

念のため、部屋や廊下を広くしましたが、「念のため」は要りませんでした。工務店さん・設計士さんにしたら、面倒くさいお客さんかもしれません。ただ、家族でとにかく話し合って詰めたほうがいいです。

例えば、「ここの収納には来客用のフトンを入れる」「でも、来客って年に何回来る?」「来ても数回」「ならレンタルで良くない?」となるかもしれない。
車椅子で360度回転できるスペースがどこにでも必要かといえば、そうでもないはずです。廊下で回転するのに90cmくらいの幅が必要になりますが、通るだけでなら65cmでいい。この25cmが収納スペースになるんですよ。

本当に必要なスペースだったら設けなければなりません。ただ、「念のため」なら別に要らないんですよね。僕の場合は、日本中どこでも車椅子で行ける、いわゆる「アクティブユーザー」だから。もちろん、人によって年齢や体型、動作も異なりますから、そういうことを踏まえたうえでつくらないとですね。

家族と生活スタイルを完全に分ける

家族と生活スタイルを完全に分ける
2軒目に住んでから7年後。もう一度、ゼロから新築を建て直すことにしました。「家は3回建てないと理想の家にならない」という言葉もありますが、本当に3回建て直してようやくでしたね。

今の満足度は90%くらいです。ここから100%になることは、ほぼないと思っています。生活スタイルって毎年変わるので。10年後には体力が落ちていたり、子どもが自立しているかもしれない。いろんな要素が絡むので、常に100%はないと思います。
それでも1軒目、2軒目に比べると満足度はかなり高くなりました。3軒目は、設計段階でとにかく詰めました。妻と一緒に不満点をすべて書き出しましたね。

一番大事にしたのは、「動線」です。家族と僕の動線を、完全に分けました。
例えば、玄関は2つ設けました。家族用と僕用の玄関。家族用から土間続きにずっと奥まで行って、曲がると僕用の玄関があるんです。そこに車椅子を置き、視界に入らないようにして生活感を取り除きました。
健常者と障害者のスペースが分かれると、「車椅子が邪魔になる」「車椅子を動かされている」といったお互いのストレスも無くなります。

家族と生活スタイルを完全に分ける_玄関
ご家族用と官野さん用の玄関を土間でつなげる

加えて、僕の生活スペースをすべて1階で完結させました。玄関からすぐ自分の部屋に入れるように。妻と子どもは2階で過ごしています。なんか家庭内別居ハウスみたいな感じですね(笑)
僕が2階のリビングにいる時間はそんなに長くないので、奥さんと子どもがリビングで生活できて、僕もダイニングまで行けて一緒にテレビ見れるくらいのスペースがあればいいだろう、と。

さらに、美容師の妻が「自分のお店を持ちたい」と希望したので、1階に美容室も併設しました。生活するスペースはぐっと少なくなりましたが、それでも難なく住めています。先ほど「必要以上に広くなくていい」と言ったのは、まさにここで。余ったスペースを妻に使ってもらったんですね。

これだけのスペースを確保できたのは、エレベーターを設置したおかげです。直線だった階段を折れ階段にできて、4分の3くらいスペースを削減できました。
もともとは、美容室用のスペースを確保するためにエレベーターを設置したんですが、昇降の時間や手間を考えると250万円の価値がありましたね。車椅子が1台で済んで、とにかく楽です。

お風呂やトイレも、完全に分けました。2階には家族用のトイレとお風呂。1階には僕用。お風呂というよりは、シャワールームです。TOTOさんのシャワールームは、半坪ないくらいの省スペースで設置できるんです。コストも安くて、すごく優秀だなって。経営しているジムのシャワールームにもまったく同じものを設置しています。

家族と生活スタイルを完全に分ける_シャワールーム
省スペースで設置できるシャワールーム

ある程度分けたほうが、お互いにストレスもかからないという部分がすごく良いです。僕は基本的に自分のことは自分でやるので。要は、妻が子どもにフォーカスできるようなスタイルというか。子どもと一緒に居れる時間を長くする家のつくり方にしたんですね。

家族みんなが幸せになる福祉住宅づくりとは?

家族みんなが幸せになる福祉住宅づくりとは?
家族と住む福祉住宅づくりには、とにかくバランスが大切です。「家族みんながハッピーに」が絶対的なキーワードです。
障害を中心に家づくりをしても幸せになるとは限りません。家族全員がハッピーにならなきゃいけないと思います。一緒に住むには、お互いの機嫌がいい、ストレスがかからない住宅が1番いいでしょう。

1人にフォーカスして満足する家って、決して良くないと思うんですね。みんながある程度満足できたり、譲り合えるような家が理想です。福祉住宅の場合だと、障害にどうしても寄っちゃうんですけど、決してそうではありません。
家族が障害のある人の面倒を見る面も、多少あると思うんです。面倒を見るのは嫌じゃない、でも積み重なっていくと、ストレスを感じるご家族もいるはず。そういった問題を家のつくり方一つで、防げるはずなんですよね。

僕の例では、お互いがいい意味で干渉しなくなった。今では「車椅子が邪魔で」みたいなのは一切ありません。お互いに衝突することも無い。それはちゃんと生活スタイルを合わせて、お互いにストレスがかからないように3回目でちゃんとすり合わせができたんですね。

では、理想の福祉住宅をつくるために、どうしたらいいのかと言えば、「対話」です。
一般的な建売住宅とは違って、福祉住宅はフルオーダー。すごく細かなところまで詰めて考える必要があります。
「大体これでいい」「こんな感じでいい」などと中途半端にせず、しっかりと詰める。「念のために」という考えも不要です。もしわからないのであれば、僕のような人間に相談してくれたらいいのかなと思いますね。

>> 官野一彦さんの福祉住宅相談はこちら <<

文=岡田基

官野一彦
1981年生まれ。実業家、パラアスリート。22歳でサーフィン中の事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。2006年に車椅子ラグビーを始めると1年で日本代表に選出される。2016年リオデジャネイロパラリンピックで日本初の銅メダルを獲得。2018年世界選手権で優勝。2020年にパラサイクリングに転向し、パリパラリンピックを目指す。一方でTAG CYCLE株式会社を創業し、千葉に障害者アスリート専用ジムを設立した。工務店向けITサービスを展開する「エニワン株式会社」の顧問として、障害者向け住宅のコンサルティングも行う。

福祉住宅に関するご相談は、Twitter(@kanno_tagcycle)へご連絡ください。

岡田基
2015年、自著出版をきっかけにフリーライターとして活動を始める。取材や編集、ディレクションに携わる。東京で7年活動した後、沖縄へ移住。

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