【建設業】法定福利費の算出方法とは?ざっくり費用を割り出す方法や書き方
建設工事の契約を結ぶ際には、工事請負契約約款を使用します。工事請負契約約款は、工事契約における不公平を無くすためにも、後々のトラブルを避けるためにも重要なものです。
一方で、工事請負契約約款にはいくつかの形式があるため、実際に契約を結ぶ際には、それぞれの内容の違いを把握することが重要です。この記事では、工事請負契約約款の概要とそれぞれの種類について解説します。
INDEX
そもそも約款とは、定型的な契約条項のことです。これが工事現場に適用されたのが工事請負契約約款です。工事請負契約約款を利用することで、契約をより画一的に処理することができるため、より効率よく契約に関する作業を進めることができます。
Link_【テンプレート付】工事請負契約書とは?記載項目・役割・作成方法を解説
工事請負契約約款がないと、工事の契約を結ぶたびに各種契約条項を定めなければならず、担当者にとっては大きな手間となります。そういった事態を避けるためにも、工事請負契約約款が活用されています。
なお、工事請負契約約款には異なるいくつかの機関が作成したものが存在します。作成元は異なりますが、約款の基本的な事柄はほとんど変わりありません。
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工事請負契約約款の目的は、契約を結ぶ当事者間でのトラブルを避けることです。
工事契約は基本的に、契約を結ぶ当事者間での合意の元で結ばれるものでした。しかし、一方で合意に関する解釈規範となる民法の請負契約の規定は不十分であるため、合意内容に不明確な部分が出てくると、トラブルの原因になる恐れがあります。
また、契約を結ぶ当事者間でのパワーバランスが一方に偏っていると、片方にだけ有利な契約が結ばれてしまうケースもあります。いわゆる請負契約の片務性と呼ばれる問題のことです。
こういった契約に関わる各種トラブルを避けるために、工事請負契約約款は使用されます。
また、工事請負契約約款がないと、工事の契約を結ぶたびに各種契約条項を定めなければならず、担当者の大きな負担となります。約款を活用することで、契約をより効率的に処理できるようになります。
工事請負契約書とは、民法第632条に基づき、双方の契約締結の意思を明記した書類です。
建設業法では契約成立時には契約書の作成交付、及び双方の署名捺印が義務化されています。(【参考】建設業法第19条)
工事請負契約書とは双方の合意を確認するための書類で、約款は契約書では網羅しきれない詳細を記載し、合意内容をさらに詳しく記載したものです。
工事請負契約約款は工事請負契約書の添付書類の1つであり、契約書は約款がなければ成り立ちません。双方の違いと役割が異なる点に注意しましょう。
令和2年4月から施行された債権法改により、建設業界における工事請負契約約款についても内容が改正されることとなります。
(1)譲渡制限特約について
■ 改正民法において、譲渡制限特約が付されていても、債権の譲渡の効力は妨げられないとされたところ。■ 譲渡制限特約は維持した上で、
・公共約款については、前払、部分払等によってもなお工事の施工に必要な資金が不足する場合には発注者は譲渡の承諾をしなければならないこととする条文、
・民間約款については、資金調達目的の場合には譲渡を認めることとする条文
を選択して使用できることとした。■ 併せて、譲渡制限特約に違反した場合や資金調達目的で譲渡したときにその資金を当該工事の施工以外に使用した場合に、契約を解除できることとした。
(2)契約不適合責任について
■ 改正民法において、「瑕疵」が「契約の内容に適合しないもの」と文言が改められ、その場合の責任として履行の追完と代金の減額請求が規定されたことを踏まえ、約款も同様の変更を行った。(3)契約の解除について
■ 改正民法において、瑕疵に関する建物・土地に係る契約解除の制限規定が削除されたことや双方の責めに帰すべき事由でないときであっても契約を解除できることとされたことを踏まえ、催告解除と無催告解除を整理した上で契約解除を規定し直した。(4)契約不適合責任の担保期間について
■木造等の工作物又は地盤や石造、コンクリート造等の工作物といった材質の違いによる担保期間は民法上廃止されたことを踏まえ、約款において契約不適合の責任期間を引渡しから2年とし、設備機器等についてはその性質から1年とした。※引渡しから2年(設備機器等1年)の期間内に通知をすれば、通知から1年間は当該期間を過ぎても請求可能。
上記の改正に伴い契約書約款も変更されているため、古い雛形をそのまま使用することのないようにしてください。
民法改正後に工務店側が実施すべき実務として、以下のようなものが挙げられます。
●契約書類の見直し
●社内体制整備
●お客様対応整備
まず書類の見直しをおこない、改正民法に適合した契約書・約款になっているかのチェックが必要です。リーガルチェックを通し、最新の約款になっているか確認しましょう。
まず従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」へと変更されました。この変更に伴い、工務店は引渡し時の検査体制を強化する必要があります。
これは契約書において契約の目的物の性能や品質等を明確に記載することが重要と規定されたためです。さらに、万が一不適合が発見された場合の対応手順を社内で整備するようにしましょう。
次に、請負人の担保責任の期間制限が設けられ、不適合を知った時から1年以内の通知が必要となりました。これに対応するため、工務店は引渡し後の定期点検等のスケジュール管理を厳格化し、不適合発見時の記録と通知の体制を整備する必要があります。
また、これらの変更点についてお客様への説明資料を更新しておきましょう。
さらに、注文者からの任意解除時の損害賠償について明確な基準が設けられました。工務店は中途解約時の精算方法を契約書に明記し、実費や利益損失の算定基準を事前に整理しておく必要があります。
最後に、報酬に関する規定が整備され請負報酬の支払時期が明確化されています。請負代金の支払条件を契約書に明確に記載し、工事の進捗状況に応じた支払スケジュールを適切に設定するようにフローを変更しましょう。
◻︎施工不良が見つかった場合のトラブル事例
施工不良についても、改正民法では契約不適合責任の範囲が明確化されています。しかし、旧約款では瑕疵担保責任としての扱いであるため、修補請求や損害賠償請求の範囲が不明確です。もしも古い約款を使用しており施工不良が発見された場合、工務店が施工不良で生じた損害を超えた賠償責任を負うこともあります。
このような事態を防ぐためには、新約款に基づく契約不適合責任の範囲を明確にし、適切な検査体制と記録管理を整備することが重要です。
◻︎契約の途中解除に関してのトラブル事例
注文者の任意解除権についての規定が整備されており、損害賠償の責任が明確化されています。しかし、旧約款ではこの規定が明確でなく精算方法や損害賠償の算定時基準が曖昧になっています。もしも旧約款を使用し続けていた場合に、契約の途中解除においての損害賠償や精算方法についての対立が生じ、紛争が長引く可能性があるでしょう。
◻︎引渡し後の不具合について建築主から1年以上経過してから指摘を受けた事例
改正民法では発注者は不具合を発見してから1年以内に通知が必要だと明記されています。しかし、旧約款では通知期限が明確になっておらず、かなり時間が経ってから不具合についての報告や修補を求められることがあります。
この場合「その不具合が本当に施工不良かどうか」を証明するのが難しく、発注者と工務店の間で見解の相違が生じる場合があるでしょう。検査体制や点検記録が十分でないと、施工不良かどうかの証明ができず、本来責任のない修補や損害賠償の責任を負う可能性があります。
このようなトラブルを防ぐためには、新約款への移行と共に、引渡し時の検査体制の強化、定期点検の実施、不具合発見時の記録と通知の体制整備が重要となります。さらに、建築主に対しても、不具合を発見した場合の通知期限について、契約時に十分な説明を行いましょう。
ここからは、工事請負契約約款の種類について解説します。基本的な内容は変わりありませんが、作成している機関に違いがあるため、参考にしてみてください。
中央建設業審議会(中建審)は、学識経験者と建設業者、そして建設工事を必要としている需要者によって構成されている、建設業に関する中立で公正な新議会のことです。
中建審は、昭和24年に発足して以来、公共工事に使用する「公共工事標準請負契約約款」民間工事に使用する「民間建設工事標準請負契約約款(甲)及び(乙)」、下請工事に使用する「建設工事標準下請契約約款」を作成しています。
【参考】国土交通省-建設工事標準請負契約約款
民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会とは、建設業界に関する7つの公益・一般社団法人によって構成されている組織です。
大正12年に4つの団体によって「請負契約書案聨合調査會」として発足し、その後組織の変遷を経て、現在の民間(七会)連合協定工事請負契約約款委員会となり工事請負契約約款の作成を行っています。
住宅金融公庫とは、国土交通省・財務省所管の特殊法人・政策金融機関で、政府系金融機関として設立されました。現在はその業務を「独立行政法人住宅金融支援機構」に引き継いでいます。こちらでも、工事請負契約約款の作成が行われています。
【参考】日本金融支援機構
日弁連は、正しくは日本弁護士連合会といい、全国の弁護士会がさまざまな活動をより良い環境でできるように各種活動を行なっている組織です。こちらの組織でも約款の作成を行っていますが、これまで紹介した組織が作る約款とは若干特徴が異なります。
日弁連住宅建築工事請負契約約款の場合、工事が完了して引き渡しを行なった後に、工事金額の1割分の支払いが、2ヶ月残る仕組みになっています。このように支払いに関する条件が注文者に有利になるような形になっているため、工務店によっては使いにくさを感じるかもしれません。
【参考】日弁連住宅建築工事請負契約約款
約款の選択は、工事の性質や規模によって適切に判断する必要があります。公共工事の場合は公共工事標準請負契約約款の使用が原則となりますが、民間工事の場合は工事の特性に応じて選択することが重要です。
大規模な民間工事では、民間建設工事標準請負契約約款(甲)が適しています。これは比較的大規模な工事を想定して作られており、詳細な規定が設けられているためです。
一方、中小規模の工事では、よりシンプルな構成の民間建設工事標準請負契約約款(乙)の使用を検討するとよいでしょう。
また、住宅工事の場合は、独立行政法人住宅金融支援機構の約款や、日本弁護士連合会の住宅建築工事請負契約約款なども選択肢となります。これらの約款は特に消費者保護の観点から、住宅工事特有の規定が充実しているためです。
工事請負契約約款に記載すべき内容は、以下のとおりです。今回は国土交通省の「建設産業・不動産業:建設工事標準請負契約約款について – 国土交通省」に基づき解説します。
⚫︎発注者の情報
⚫︎受注者の情報
⚫︎工事名
⚫︎工事場所
⚫︎工期
⚫︎施工しない日や時間帯
⚫︎請負代金の額
⚫︎支払い方法
⚫︎調停人
⚫︎瑕疵担保責任の履行についての措置
⚫︎その他国土交通省令によって定められた事項について
建設業法で定められる請負契約書の記載事項と重複する部分もありますが、より詳細に記載することで個別に契約内容を確認できます。
工事請負契約約款には、建設業法で定められた必須の記載事項があります。発注者・受注者の基本情報、工事名、工事場所といった基本事項に加え、工期や請負代金の額、支払方法などの契約の根幹となる事項を明確に記載する必要があります。
特に重要なのが工期と施工時間の取り決めです。工事を行わない日時等を明確にすることで、近隣とのトラブルを防ぎ、作業員の適切な労務管理にもつながります。また、請負代金の支払方法については、前払金の有無や出来高払いの条件など、詳細な取り決めが必要です。
必須記載事項に加えて、工事の円滑な遂行のために重要な任意記載事項があります。例えば、追加工事が発生した場合の手続きや、工期延長の判断基準、不可抗力による損害の負担方法などです。これらは工事中のトラブルを未然に防ぐために、可能な限り具体的に定めておくことが望ましいでしょう。
近年特に重要性を増しているのが、デジタル化への対応です。図面や写真データの取り扱い、電子承認の手続き、データの保管方法など、デジタル情報に関する取り決めも明確にしておく必要があります。
工事請負契約約款は、各組織が作成したものを雛形として用い、必要に応じてアレンジするのが一般的です。
工事請負契約約款は、場合によっては工事を請け負う建設会社にとって不利な内容になっているケースもあります。
そのため雛形を利用する場合、雛形だからと言って安心するのではなく、一通り目を通したうえで内容的に不利になっている部分は話し合いをして解消するなどの対策を取るようにしましょう。
”2 前項第一号に該当し、発注者が受注者に対し損害の賠償を請求する場合の違約金は、契約書の定めるところにより、延滞日数に応じて、請負代金額に対し年十四・六パーセント以内の割合で計算した額とする。【引用】民間建設工事標準請負契約約款(乙)”
工事を行なっていると、さまざまな理由から工事遅延が発生するケースがあります。
工事遅延に対して違約金が発生しますが、この違約金の価格が適切かどうかは必ず検討しなければなりません。
約款によっては年14.6%の違約金請求が可能となっていますが、これが高いと感じる場合は、依頼主と交渉するようにしてください。
”(工期の変更)
第二十一条 不可抗力によるとき又は正当な理由があるときは、受注者は、速やかにその事由を示して、発注者に工期の延長を求めることができる。この場合において、工期の延長日数は、受注者及び発注者が協議して定める。【引用】民間建設工事標準請負契約約款(乙)”
工期が遅れてしまう場合の取り決めについても、約款の中でしっかりと明記する必要があります。基本的に工期の延長は、不可抗力による延長など、正当な理由がある場合に依頼主と交渉して定められるとされています。
一方で、一言で「不可抗力」と言っても天災や依頼主の仕様決定の遅れなど、さまざまなケースが想定されます。そのため、工期の延長はどう言った時に行うことができるのか、事前にしっかりと話し合いを行い決めておく必要があるでしょう。
”第二十条 発注者は、必要によって工事を追加し、若しくは変更し、又は工事を一時中止することができる。
2 前項の場合において、請負代金額又は工期を変更する必要があるときは、発注者と受注者とが協議して定める。
【引用】民間建設工事標準請負契約約款(乙)”
工事中や工事完了後に追加の工事が発生するケースも中にはあります。そのような時に、追加工事分の工事代金を請求できるように設定しておくと便利です。
約款によっては、追加工事に関しては依頼主の承諾がなければ、工事代金が請求できないと設定されているものもあります。
そのため、工務店側が損をしないためにも、必ず追加工事に関する取り決めを確認し、必要に応じて依頼主と話し合って内容を変更するようにしましょう。
”(第三者の損害)
第十二条 施工のため、第三者の生命、身体に危害を及ぼし、財産などに損害を与えたとき又は第三者との間に紛争を生じたときは、受注者はその処理解決に当たる。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によるときは、この限りでない。
2 前項に要した費用は受注者の負担とし、工期は延長しない。ただし、発注者の責めに帰すべき事由によって生じたときは、その費用は発注者の負担とし、必要があると認めるときは、受注者は工期の延長を求めることができる。
【引用】民間建設工事標準請負契約約款(乙)”
標準約款には、近隣のクレーム対応にかかる費用は受注者が負担すると書かれています。つまり、約款上は受注者に不利な契約内容となっています。このままでは、受注者に非がない場合のクレーム対応についても、一方的に負担を負わなければなりません。
このような問題を防ぐためには、約款をアレンジして受注者側に非がない場合の追加費用は発注者が負担すると定めましょう。また、クレームにより工事が中断するような事態が起きた場合は、工期延長が可能としておくと安心です。
建設業界では従来紙面での契約が慣習でしたが2001年(平成13年)4月の建設業法改正により電子契約が認められたことから、現在は電子契約への移行が進んでいます。電子契約で工事請負契約を締結する場合、以下の点に特に注意が必要です。
まず、電磁的措置の要件として、書面の交付に代わる適切な措置が求められます。具体的には本人確認ができる仕組みを実装し、契約当事者を明確に特定できる手段を確保しなければなりません。さらに、契約内容への合意を確実に証明できる方法を用意しましょう。(【参考】建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン|国土交通省)
電子契約システムの選択も重要な要素です。システムには契約書・約款を電子的に保存する機能が不可欠であり、契約当事者の認証機能も備えている必要があります。特に重要なのがデータの改ざん防止機能です。一度締結した契約内容が不正に変更されることのないよう、適切な保護措置が施されていなければなりません。
実務面では、約款そのものの電子化対応も重要です。紙の契約書を電子化するだけでなく、約款自体も電子的に交付できる形式に整える必要があります。そのため、クラウドサインなどの信頼性の高いシステムを利用し、契約当事者の合意を明確に示せる仕組みを確保するようにしましょう。
今回は、工事請負契約約款に関して、その概要から種類、利用時の注意点などについて解説しました。
工事請負契約約款は依頼主との間でのトラブルを起こさないためにも欠かせない重要なものです。
一方で、各組織が作成している工事請負契約約款の雛形をそのまま利用すると、工務店側に不利な契約になるケースもあります。そのため、工事請負契約約款の雛形を利用する時は、必ず内容を確認するようにしましょう。
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記事監修:佐藤主計
保有資格:1級造園施工管理技士、2級土木施工管理技士
建設業界に携わり30年。公共工事の主任技術者や現場代理人をはじめ、造園土木会社の営業マン・工事担当者として、数万円から数千万円の工事まで幅広く担当。施工実績は累計約350件にものぼる。
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