【テンプレート付】工事請負契約書とは?記載項目・役割・作成方法を解説

【テンプレート付】工事請負契約書とは?記載項目・役割・作成方法を解説

工務店が工事を受注する場合、工事請負契約書を使用します。
工事請負契約書はどのような役割を持っていて、どのような内容を記載するのでしょうか。
この記事では、工事請負契約書の概要から役割、具体的な記載項目、さらには作成方法について解説します。ぜひ、工事請負契約書作成時の参考にしてみてください。

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※本記事は2024年6月時点の情報です。

工事請負契約(書)とは

工事請負契約(書)とは

工事請負契約とは、住宅の建設やリフォームなどの各種工事を行う際に工務店やリフォーム会社などが発注者と結ぶ契約のことです。「住宅建築工事請負契約」や「住宅リフォーム工事請負契約」などの種類があります。

契約書には、発注者と請負者の名前や工事の期間、工事の内容などが記載されているのが一般的です。また、契約を結ぶ際には、工事請負契約書の他に「工事請負契約約款」「見積書」「設計図書」といった書類を合わせて提出します。

建設工事に関する契約は扱う項目も多いため、事前にどういった内容を扱うのか把握しておくことが理想的です。

 工事請負基本契約書との違い

工事請負基本契約書とは、元請から下請に工事を依頼する際の合意形成のために作成する契約書です。
作成は必須ではありませんが、元請・下請の関係を正しく把握するためにも、作成しておいた方が良いでしょう。

一方で工事請負契約書とは発注者と元請が結ぶ契約であるため、全く違う契約書であることがわかります。

 建設工事標準請負契約約款とは

建設工事標準請負契約約款とは、建設業34条2項をもとに作成された建設工事の詳細なルールを定めたものです。建設工事標準請負約款の制定により、施工完了後のトラブルや元請と下請の力関係による契約内容の偏りを防止するために作られています。

約款の内容が該当工事の内容に沿っているかどうか、片方に著しい不利益を生じる内容になっていないかどうかも確認が必要です

 工事契約書における印紙税などのルール

請負に関する契約書|国税庁」によると、工事契約書は課税文書であり、印紙の貼り付けが必須です。印紙を貼り付けて、消印を押すところまで忘れないようにしましょう。

万が一印紙の貼り付けを忘れた場合は、脱税とみなされてしまい、印紙税額の3倍の過怠税が貸されるため注意してください。
印紙税の金額は以下を参考にしましょう。

印紙税表

(注) 印紙税は、契約書に記載された内容により取扱いが異なりますのでご注意ください。
【引用】No.7102 請負に関する契約書|国税庁

●工事請負契約書を電子化する場合は印紙税は不要
工事請負書を電子化した場合は印紙税がかかりません。
電子契約を締結する場合は、上記ルールが適用されない点に注意しましょう。

電子帳簿保存法_工事請負契約書

工事請負契約書の内容

工事請負契約書の内容

工事請負契約書は、発注者と請負者の間で工事に関する各種取り決めを記載したものです。
ここでは、工事請負契約書に記載する具体的な内容について解説します。

 記載が義務付けられている14項目

工事請負契約書には、法律によって以下の16項目を記載することが義務付けられています。
2020年10月の建設業法の改正前は14項目でしたが、新たに「工期を施工しない日・時間帯」と「その他国土交通省令で定める事項」の記載も加わりました。

・工事内容(工事名や住所など)
・請負代金の金額
・着手と完成の時期
・「請負代金の全部」「一部の前金払」「工事が完了した部分」など、支払いに関する取り決めがあるときは、その支払の時期と方法
・「設計変更」「工事着手の延期」「工事の全部、もしくは一部の中止の申出」があった場合の「工期の変更」「請負代金の額の変更」「損害の負担とそれらの額の算定方法」
・「天災や不可抗力による工期の変更」や「損害の負担とその額の算定方法」
・物価の変動や変更時に請け負う代金の額の決め方および工事内容の変更方法について
・施工中に第三者が損害を受けた場合の賠償金について
・発注者が工事用の資材を提供するときや、建設機械などを貸与するときの取り決め
・注文者が「工事の全て」あるいは「一部の完成」を確認するための検査の時期・方法と引渡しの時期に関する取り決め
・工事完成後に行われる請負代金の支払の時期と方法 について
・工事の目的物の過失に対する責任や、責任の履行に関して行う保証保険契約の内容について
・契約内容の遅れや不履行時の遅延利息や違約金、損害金について
・契約に関する紛争の解決方法について
・工期を施工しない日・時間帯
・その他国土交通省令で定める事項

【参考】建設業法 第19条

 工事によって内容が異なる8項目

工事請負契約書は、工事によって内容が変わる項目もあります。具体的には以下の8項目が当てはまります。

・工事名
・工事場所
・工期(工事着手および工事完成の時期)
・工事を施工しない日、施工しない時間帯
・請負代金額
・請負代金の支払い時期と方法
・調停人(定めない場合は削除する)
・その他の項目

これらの項目に関しては、作成時に特に注意して記載するようにしましょう。

【参考】国土交通省-公共工事標準請負契約約款の実施について

 その他自由条項の例

工事請負契約書はここまで紹介した項目以外にも、自由に条項の設定が可能です。例として、工事請負契約書において取り決めされることが多い条項の例を紹介します。

⚫︎ローン特約について
⚫︎反社会的勢力の排除について
⚫︎管轄裁判所について

ローン特約についての条項は、万が一住宅ローン審査を通過せず資金調達が困難な場合は、発注者が契約解除ができることを定めた条項です。資金調達ができない場合に発注者側を保護するためにつくられています。

反社会的勢力の排除については、契約当事者やその関係者が暴力団員でないことを表明し、万が一違反があった際には契約解除または損害賠償を求めることができる条項です。

最後の管轄裁判所については、当該契約について紛争が発生した際に、訴訟を提起する管轄裁判所についての条項です。

上記の条項は必須項目ではありませんが、工事内容に応じて定めておくことで、トラブルの防止や紛争解決をスムーズにする効果があります。

工事請負契約書を交わさず着工が可能か

工事契約書は建設業法で作成を義務つけられている書類であり、作成を怠った場合は法律に違反することとなります。万が一工事請負契約書を交わさず着工した場合に起きるリスクについても把握しておきましょう。

 契約は有効だが違法工事となる点に注意

工事請負契約書なしでの着工は違法行為であり、該当工事は建設業法で認められていない違法工事となります。ただし、工事請負契約書がないからといって契約の効力自体が失われるわけではありません。

民法第522条では口頭契約の有効性が認められているためです。しかし、民法において契約の有効性が認められたとしても、工事請負契約書がないため違法工事であることに変わりはありません。

 工事請負契約書なしでの着工は監督処分の対象

工事請負契約書を交わさずに着工した建設業者は、行政からの処分対象となり、その社名などが公開されます。また、建設業許可の取り消し処分を受けるリスクもあるため、必ず工事請負契約書は交わしておきましょう。

工事請負契約の役割・作成する目的

工事請負契約の役割・作成する目的

ここでは、工事請負契約の持つ役割となぜ作成するのか、その目的について解説します。

 工事内容や仕様を明確にする

工事請負契約書は、工事内容や仕様を明確にする目的で作成されています。工事請負契約書には実施する工事内容や建築様式、使用する資材や耐震性能や防火性能など、細かな部分まで取り決めた内容を記載します。

上記の内容が不明確なままで契約を締結すると、発注者の希望と違った建造物が完成する可能性があります。工事請負契約書にて工事内容や仕様を明確に定義しておくことで、工事完了後の不要なトラブルを避けることが可能です。

万が一、請負人に対して契約不適合責任を問われた際の証左になる書類であることも踏まえ、なるべく詳しく契約者双方の認識に齟齬がないように契約書を作成しましょう。

 請負契約の片務性の問題を防ぐ

工事請負契約の役割のひとつが、発注者と請負者の間での片務性を防ぐことです。
建設工事は基本的に請負契約によって行われます。本来であれば、契約は双方にとって平等なものでなければいけません。

しかし、実際には発注者側が取引関係における有利な立場を利用して、自分たちに有利な契約を結ぶことも珍しくありません。
この請負者にとって不利な契約を結ぶことを請負契約の片務性といいます。

片務性の具体例としては、以下のような例が挙げられます。

・代金が支払われるタイミングやその方法がはっきりしない
・一方的な設計変更を指示され、請負者が損害賠償を請求できない
・資材の購入先を指定される
・不可抗力による損害負担を請負者に強いる など

これらの問題は、工事請負契約書を作成することで防ぐことができます。

【参考】国土交通省-発注者・受注者間における建設業法令尊守ガイドライン

 万が一のトラブル発生時のルールを明確にする

工事請負契約を締結したとしても、発注者と請負者の間でトラブルが発生する場合があります。工事請負契約書には、あらかじめトラブルが発生した場合の対応に関してのルールについても取り決めをしておきましょう。

例えば、契約不適合責任を追及できる期間や損害賠償責任が発生する要件やその場合の上限額、契約解除が可能な要件やその方法、万が一訴訟が発生した場合の管轄裁判所についても記載が必要です。

この際に、片方にとって有利な内容になっていると、理不尽な内容で契約解除を強いられたり、賠償責任を負わされることがあります。契約の過程で話し合いの席を設けて、内容についても協議するようにしましょう。

 合意内容に不明確な箇所をなくす

工事の内容についての合意があったとしても、不明確な部分があったり、認識に違いがあったりすることもあります。そのようなことがきっかけとなり、後日トラブルが発生するケースも珍しくありません。

工事請負契約書は、契約に関して細かい部分までしっかりと内容を記載することで、不明確な部分をなくし、認識の違いを発生させないようにしてくれます。

【便利なテンプレートあり】工事請負契約書の作成方法

工事請負契約書の作成方法

工事請負契約書は、エクセルを使用したり、ソフトを使用したり様々な方法で作成することができます。また、インターネット上には無料で配布されている雛形があるため、それらを利用することも可能です。

ただし、無料の雛形は請負者に不利な内容になっているものも少なくありません。雛形を使用する場合は、内容をしっかり確認して、必要な項目を付け足すなどの工夫をしましょう。
そして、作成にあたっては、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。どのようなポイントに注意が必要なのか、引き続き解説します。
工事請負契約書の詳しい作成方法については、「工事請負契約書の書き方」記事をご参照ください。

 工事遅延に伴う違約金を設定する

工事請負契約書を自社で作成する場合、遅延に伴う違約金について適切な額を設定する必要があります。
民間建設工事標準請負約款(乙)の第33条では、工事の遅延によって請負金額に対して年間14.6%の違約金請求が行えるとされています。

しかし、法律上では、遅延による違約金は年5%もしくは6%で計算する、とされているため、標準約款をそのまま使用すると高い違約金を支払うことになってしまうのです。
そのため、遅延に伴う違約金は、発注者と協議して適切な額を設定するようにしましょう。

 工期の延長に関する規定を設定する

工事を進めていく中で、天候不良や発注者の使用決定の遅れなど、スケジュールに遅れが生じることがあります。
工期の延長は、場合によっては違約金を請求される可能性もあるため、工事請負契約書を作成する段階で、工期の延長ができる規定を設けておくようにしましょう。

なお、民間建設工事標準請負約款(乙)を使用すると、工期の延長は発注者と協議して決めることになっていますが、発注者の承諾なしで延長できるようにしておくのがおすすめです。

 追加工事代金の請求ができるようにしておく

工事を進めていく中で、追加工事が発生する可能性は十分にありえます。
その際、しっかりと追加工事代金を請求できるようにしておくことが重要です。

民間建設工事標準請負約款(乙)を使用する場合、追加工事代金は発注者との協議によって定めることになっているため、発注者の承諾がなければ費用の請求ができません。
そのため、追加工事が発生した場合は、費用を請求する旨の内容を入れておくようにしましょう。

 近隣住民からのクレームへの対応に関する取り決め

工事を進めていく中で、近隣住民から騒音などのクレームが入る可能性があります。場合によっては、クレームによって工事を一時的に中断することもあるでしょう。

しかし、民間建設工事標準請負約款(乙)では、クレームを理由とする工期の延長はできない仕組みになっています。
そのため、もしクレームによる工期の遅れだとしても、違約金を請求される可能性があります。そういった事態を避けるためにも、クレームが発生した場合は、工期が延長できる旨を記載しておくといいでしょう。

 地中障害物発見時の規定を定める

万が一地中に障害物が発見された場合、工事が中断する可能性があります。
場合によっては追加費用が発生する場合もあります。

多くのテンプレートでは、地中障害物についての規定は含まれておらず、事象が発生した際に都度協議するというように定められているケースが多いです。

請負人の立場からすれば、施主が工事継続を望むのであれば施主負担にて地中障害物の撤去費用を負担すべきと考えるのが一般的です。

しかし、規約に「発注者の承諾なしに地中障害物の撤去を実施し、費用は施主が負担する」などと規定すると、請負人側に有利すぎると判断されて、施主からの合意が得られないかもしれません。

そのため「万が一地中障害物を発見した際、請負人は速やかに施主へ報告を実施する。
追加費用の見積を提出し、合意のうえで撤去を実施、費用を請求する」などと規定しておくと良いでしょう。

工事請負契約書を締結するときの注意点

工事請負契約書を締結するときは、ここまで解説した内容に加えて以下4つの点にも注意しましょう。

 現場代理人の選任

現場代理人とは建設工事の現場で、工事を管理する現場監督者を設置します。

現場代理人を設置する場合は、発注者に対して現場代理人の権限と現場代理人の行為について、注文者が請負人に意見する場合の申出方法を規定しましょう。

注文者が請負人に意見する場合の申出方法とは、要はどのように発注者が現場監督者に対して意見するかです。一般的にメール・文書などと規定することが多いでしょう。詳しくは、施主と確認しながら記載しましょう。

 請負金額の決定

建設業法第19条の3」には工事請負契約書において、発注者が請負人に対して不当な金額で契約を結ばせることは認められないと規定されています。

発注者の方が契約上優位であると考え、原価割れするような金額での契約はできません。
万が一、発注者から著しく安い額での提示があっても応じる必要がない点に注意しましょう。

 工期について

発注者は請負人に対して、著しく短い工期を設定して契約を締結できません。(建設業法第19条の5
請負人側の業務負荷、長時間労働の原因ともなるため適切な工期を設定しましょう。

 下請け業者について

工務店がさらに下請け業者を使う場合は、一括下請負にならないよう注意してください。(建設業法第22条1・2
例外として、集合住宅や施設の新築工事以外で発注者が承諾した場合のみ、一括下請負が認められます。
上記の例外に該当する場合は、工事請負契約書に一括下請負の同意についての条文を記載しましょう。

ミスなく工事請負契約書を作るならエクセルテンプレートがおすすめ

工事請負契約書は詳細な記載項目の条件が定められており、また漏れなく条項を設定しないと、思わぬトラブルに発展する可能性があります。

自社で法務部を通して工事請負契約書を作ることは可能ですが、法務部門がない場合は別途弁護士へのリーガルチェックなどを依頼しなければなりません。

手間やミスをなくして工事請負契約書を作るなら、エクセルテンプレートを使用しましょう。テンプレートには事前に必要項目が設定されているため、内容を少しカスタマイズするだけで工事請負契約書を作成できます。

AnyONEは無料で工事請負契約書のテンプレートを公開しています。

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ダウンロードして内容を確認し、必要情報を入力すれば工事請負契約書が作成できて便利です。

まとめ

今回は、工事請負契約書について、その概要から役割、記載内容、作成時のポイントを解説しました。

建設工事における契約書は内容も枚数もボリューミーになりがちなので、事前にどういった項目が必要なのか、どういった点に注意しなければいけないのか、把握しておくことが大切です。
また、契約書はできるだけ雛形を使用するのではなく、自社で作成するようにしましょう。

以下の『他社システムの機能比較』では、工務店での業務効率化を図る際に活用できる各種システムについて機能を比較しながら特徴を解説しています。契約書作成にも利用できるので、ぜひ参考にしてみてください。

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記事監修:佐藤主計
保有資格:1級造園施工管理技士、2級土木施工管理技士
建設業界に携わり30年。公共工事の主任技術者や現場代理人をはじめ、造園土木会社の営業マン・工事担当者として、数万円から数千万円の工事まで幅広く担当。施工実績は累計約350件にものぼる。


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